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2015年度(平成27)

モダン都市の文学誌 ~描かれた浅草・銀座・新宿・武蔵野~

■「モダン都市の文学誌 ~描かれた浅草・銀座・新宿・武蔵野~」

会期:2015年(平成27) 6月2日~7月20日

この展覧会は、東京の様々な地域を文学作品から読み解くものとして企画しました。
川端康成の「浅草紅団」(昭和4~5年)は、関東大震災前の浅草の風俗と、震災後に新たな町づくりが始まった隅田川周辺の様子を重層的に描いた作品です。物語に登場する〈浅草雷門ビル〉は、昭和2年に浅草―上野間でスタートした東京地下鉄道が運営する食堂で、新時代の象徴として描かれています。

永井荷風は「つゆのあとさき」(昭和6年)で、自ら足繁く通った銀座のカフェーの風俗を詳細に記しています。朝日新聞社屋や帝国ホテルなどの建造物も印象的に登場し、梅雨前後の季節感を表出させながらストーリーを進める筆致に、その実力が発揮されています。
浄書・製本された自身の日記「断腸亭日乗」原本が数多く展示されたのも、本展の特徴でした。

龍膽寺雄は、昭和初期に一世を風靡した流行作家で、「新宿スケッチ」(昭和4年)では町の特性をスピード感あふれる鋭利な文体で活写しました。震災後、郊外の人口が増加した東京では、新宿は私鉄電車の始発駅がおかれた〈ターミナル駅〉としての役割を果たし、周辺には、映画館、劇場、ダンスホールや百貨店など、大衆の好む都市の施設が建ち並びました。

横光利一の「春園」(昭和12年)は、欧州旅行を経て東洋文化における西洋文明の超克に目を向けた作者が取り組んだ作品です。舞台となった武蔵野地域の田園風景は、登場人物の心理や行動の変化を際立たせています。

本展を通して、改めて、今につながる都市と郊外の姿を見つめ直すきっかけを感じていただければと考えました。
なお、期間限定で園内のカフェ・武蔵野茶房で販売の「ライムソーダ」は、昭和の銀座で永井荷風が飲んだ「ライムジュース」をヒントに作ったもので、暑い中ご来園のお客様に好評でした。